「しかとおうさま」ジャータカえほん
出版 財団法人 鈴木学術財団
え 北田卓史
ぶん 巽 聖歌
この絵本の裏表紙には次のように書いてあります。
「しかとおうさま」について
この物語(南伝大蔵経第十二榕樹鹿本生)には一つの追いつめられた状況があります。
順番で「死」への列に並ばされた鹿たちの恐怖については、想像するだけで恐ろしくなります。
この荒涼とした状況には私達の心も凍りついてしまいますが、ぎりぎりのこの条件の中で、きんいろの鹿王ニグローダが親鹿の身がわりに立ったということには、深い感動をよびさまされます。
それは、この「しかとおうさま」が、「ししおうのなさけ」(第二集・第一巻)と同じように、自己を犠牲にして他の生命を救うという生物のなしうる最高にして、最も困難な問題を美しい話しに托して私達に示してくれているからです。
これこそ、ジャータカ(本生話)の根幹をなす菩薩道(ぼさつどう)の真髄で、仏陀(ブッダ)となる前の菩薩としての釈尊の姿(鹿王ニグローダ)をよく表しているといえるでしょう。
あらゆる動物たちのいのちを保証(不殺生)した王は、その後、のびのびした動物たちの生活を見るにつけ、自分の心にも平和がおとずれたことを知ったことでしょう。
他を殺すものは自分の心をも殺しているのです。
母鹿はその後、蓮華のつぼみのような子鹿を生みました。
子鹿はニグローダ鹿王のもとで、そのいつくしみにこたえる成長をみせたということです。