「ししおうのなさけ」ジャータカえほん
出版 財団法人 鈴木学術財団
え 丸木俊子
ぶん 村岡花子
この絵本の裏表紙には次のように書いてあります。
「ししおうのなさけ」について
生けるもの同志がおたがいに憐れみあうこころの中でも、自分の身体の肉を与えて相手を救うという物語は、その極限ともいうべき感動を与えます。
しし王のこの説話(今昔物語集)もその一つで、その他にいくつか数えられます。
法隆寺の玉虫厨子に描かれている捨身施虎の図などもよく知られています。
我が児のために身を捨てる母の話もあってそれもまたこの上なく尊いものです。
近くはヴェトナムの僧侶の眼をおおわせる焼身自殺の姿のなかにもこうした願いを読みとれるかと思います。
南伝大蔵経第四九九尸毘王本生ではこれが王の眼を布施する物語となり、そこには次のように詠われています。
/(王たる)われ、人間のまなこを施し、人間のものならぬ眼を獲ぬ・・・・・/
眼は人間生活に欠くことのできないもので、他とは比較にならぬほど大切なものですが、それを施したため、人間の眼では見えないものを見ることのできる眼を与えられた、というのです。
「人間のものならぬ眼」とはさとりへと導く眼であり、真理を見出す眼であります。
自分にとって現世的な価値のあるものを捨て、彼岸のさとりを得るということは、インド・中国・日本などの仏教を信じる人びとの願いでありましたが、それはまた大へん難しいことでもありました。
このえほんではそれがしし王の思いやりと責任感をかりて描かれ、猿の母子もしし王のなさけを喜んでありがたく受け入れています。
その心のかもし出す美しさが、これを読む子供たちの胸の中にもひびいていきますようにと願っています。