椰子の実・島崎藤村

椰子の実・歌絵葉書
椰子の実・歌絵葉書
椰子の實・歌詞
椰子の實・歌詞

椰子の実・島崎藤村

 

「椰子の実」と云う歌がある。
歌い出しは「名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ」である。
歌詞全体は知らなくとも、この「椰子の実」の一番は知っている人は多い。
実にロマン溢るる歌である。
この歌の元は島崎藤村の「詩」である。
島崎藤村はこの詩を明治三十三年「新小説」六月号に発表し、明治三十四年八月に発行された『落梅集』の中に収めた。

 

島崎藤村「落梅集」より
  明治三十二年~同三十三年(小諸にて)

 

椰子の實

 

名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子やしの實ひと

 

故郷ふるさとの岸を離はなれて
なれはそも波に幾月いくつき

 

もとの樹は生ひや茂しげれる
枝はなほ影をやなせる

 

われもまた渚なぎさを枕まくら
孤身ひとりみの浮寢うきねの旅ぞ

 

をとりて胸にあつれば
あらたなり流離りうりの憂うれひ

 

うみの日の沈むを見れば
たぎり落つ異郷いきやうの涙なみだ

 

思ひやる八重やへの汐々しほじほ
いづれの日にか國へ歸らむ

 

この島崎藤村「椰子の實」の歌は昭和十一年、日本放送協会ラジオ番組「国民歌謡」で作曲家の大中寅二が作曲し放送された。
このことにより多くの人々に歌われるようになった。


過去の戦争で南方に送られた多くの日本の兵士達に愛唱されていたと云う。

「激り落つ異郷の涙・・・・・いづれの日にか國へ歸らむ」と僅かな希望を胸に歌ったが、それも空しく数百万人の命は日本に帰ること無く戦地に散った。 

今日8月15日、終戦の日である。


又、この島崎藤村の「椰子の實」は柳田国男の若き日の体験話からヒントを得て作詞されたことは人口に膾炙されて久しい。
柳田国男が海岸に打ち上げられた椰子の実のことを島崎藤村に話したエピソードは、柳田国男の著書「故郷七十年・拾遺」、又「海上の道」に書かれている。