千本のえんとつ・佐藤忠良 画
真鍋和子 文
佐藤忠良 絵
ポプラ社の少年文庫18
昭和47年(1972)9月25日 初版 株式会社 ポプラ社:発行
「千本のえんとつ」は山本茂実の著作「あゝ野麦峠-ある製糸工女哀史-」に感銘を受けた真鍋和子が、少年少女向けに諏訪の岡谷などを取材し、「製糸工女の哀史」を綴った本である。
この本の目次の前頁には
「諏訪千本
──これは、明治・大正から
昭和のはじめ頃まで、 長野県の岡谷のことをいったことばです。
諏訪湖のほとりにある岡谷は、 日本の製糸業の中心で、
町には、何千本ものえんとつが立ちならび、 まっ黒なけむりをはいていました。
その下で働いていた工女(こうじょ)たちが、 この本の主人公です。
工女たちは、いったい何を考え、 どんな毎日を送っていたのでしょうか。」
とある。
もくじ
古ぼけた写真 ─────6
おばあさん工女 ────16
馬みたいなくらし────42
ヒデさんのばあい ───70
けわしい道 ──────83
工女をかりたてた人──103
ストライキ ──────115
手紙 ────────127
あとがき ──────132
「あとがき」の最後には次のように書かれている。(134~136頁)
「わたしが大学生だったころ、明治百年をたたえる、いろいろな行事がありました。
文明開化、富国強兵など、明治百年は、バラ色のすばらしい時代だったというのです。
けれども、わたしにはどうしても、心にひっかかることがありました。
明治百年を、すばらしい時代とばかり讃美するのに対して、一方で、悲惨な生活をよぎなくされた工女たちがいたことを、どう考えるか、これが、わたしの疑問でした。
バラ色の明治百年とは、製糸工女の犧牲の上に成りたち、戦争に勝つことによって、ささえられていたのです。
明治百年を考えるとき、このような点を、わたしたちはわすれてはなりません。
けれど工女たちを、ただ弱い犠牲者としてとらえるだけではいけません。
わたしが岡谷にいってまず感じたことは、工女たちの目立たないながらも、しっかりと根をおろして生きている、ひたむきな強さでした。
たくさんのあばあさん工女たちのことばを、わたしはいま、思いだしています。
工女たちは、けっして、めそめそしてばかりいませんでした。
悲惨な境遇のなかで、ストライキにあらわれているような力を、糸をとりながら育てていたのです。
『・・・・・・・人間らしく生きたい・・・・・・・。』
そういって闘った工女たちも、けっきょく負けてしまい、日本は、生糸とひきかえにした軍艦や大砲で戦争を行ない、たくさんの人びとが、戦死していくという結果になってしまいました。
けれども、工女たちの叫びのなかに、自分たちの手で歴史をつくっていこうとする、力強いエネルギーを、わたしは見いだすことができます。
工女たちを、ただ『かわいそう!』のことばだけでかたづけるのは、むしろ、その苦しみを、闇にほうむることになりはしないでしょうか。
工女たちの、命をかけた訴えを、わたしたちはわすれてはなりません。
というよりも、工女たちの生き方をどのようにうけとめ、いまのわたしたちが生きていくうえで、どのように活かしていくか、これが作品をとおして、みなさんといっしょに考えてみたかった問題です。(中略)
またおいそがしいなかを、すばらしい絵を描いてくださいました佐藤忠良先生、みなさま、ほんとうにありがとうございました。・・・・・・・
とりわけ、山本茂美先生の『あゝ野麦峠』(朝日新聞社刊)からは深いかんめいを受けるとともに、多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございました」」