V.ユーゴー:ああ無情・佐藤忠良 絵
原作:V.ユーゴー
文・薩摩 忠
絵・佐藤忠良
少年少女 世界の名作 第22巻
昭和46年(1971)6月20日 株式会社 世界文化社:発行
この「ああ無情」の本には「よむ まえに」として次のようにある。
「ああ無情
日暮れの道を、お腹をすかせた旅人が、歩いています。
この旅人は、ジャン・バルジャンと云って、長い間牢屋に入れられていたのですが、やっと許されて、出てきたのです。
でも、牢屋に、入っていたと聞くと、どこの宿屋も泊めてはくれませんでした。
これからは心を入れかえて、正しい人になろうと努めているのに、世間の人々は、恐ろしいものを見るような目で、ジャンを見るのです。
けれども、人を疑うことを知らぬ年取った司教の温かい心が、ジャンを立ち直らせてくれました。
いつまでも、ジャンを付け狙う警部の目を逃れて、孤児(みなしご)の少女と共に町を彷徨(さまよ)うとき、また、少女を養っていた狡賢(ずるがしこ)い男と闘うとき、司教の云った『あなたは、もう、悪い人ではない。』という言葉が、ジャンを励ましてくれます。
貧乏のために、惨めな一生を送ったジャン・・・・・・・、幸せは、やってくるのでしょうか。」 (平仮名表記を漢字に一部直した。)
この「ああ無情」はヴィクトル・ユーゴー作の「レ・ミゼラブル」である。
原題 Les Misérables は、「悲惨な人々」「哀れな人々」を意味するらしい。
明治35年、黒岩涙香(くろいわ るいこう)による翻案・題名『噫無情』(ああむじょう)が、明治36年まで『萬朝報(よろずちょうほう)』に連載された。
このことによりヴィクトル・ユーゴーの名は多くの人に知られるようになり、「レ・ミゼラブル」は日本では「ああ無情」と題されるようになったと云う。
この絵本の佐藤忠良の絵は素晴らしいのは勿論だが、文章を担当した「薩摩忠」は非常に苦労して翻訳している。
絵本の最後の「解説」には次のようにある。
「この作品は百五十ページくらいの本が数巻にわたるほどの長編ですから、この一冊にまとめるのに大層苦労をしました。
原作に忠実にと『ラルース・クラシック』を片手に努力をしました。
登場人物も多く、舞台もめまぐるしく変わりますので、人物と地名の簡単な説明をしておきます。
【ジャン・バルジャン】たった一切れのパンのために十九年間も獄につながれる。やっと釈放されたが、世間の冷たさに悪の道へ踏み迷いそうになる。それをミリエル司教に救われ、以後、愛の心にめざめて気の毒な人々のためにつくす。
【ミリエル司教】ジャン・バルジャンを暖かな愛の心で包んだディーニュの町の司教。
【ファンティーヌ】コゼットの母親で、女工。テナルディエにいじめぬかれる。
【コゼット】母親ファンティーヌの死後、ジャンに引きとられる少女。
【テナルディエ】宿屋の主人で、やくざ者。夫婦で弱い者いじめをする。
【ジャベル警部】一度罪を犯した人間は二度と正直な人間に戻れないと信じていて、ジャンを執拗につけねらう警部。」
(以下「地名」は省略)