佐藤忠良「帽子・立像」
この佐藤忠良「帽子・立像」Hat Standing Figureは旭川市神楽3条7丁目「大雪クリスタルホール」1階ロビーに展示されている。
1974年(昭和49年)作のブロンズで143.5×60.0×37 ㎝。
この「帽子・立像」のモデルも笹戸千津子である。
佐藤忠良は「遠近法の精神史」の中で次のように語っている。
「これはいまの(帽子・夏)よりもっとむずかしくて、半分に割ってやると鯛焼きになってしまいます。この手の指は帽子をつかんでもいなければ、触ってもいません。それと、私がこれで苦労したのは、この足の隙間だったんです。人間の足はあんなにすぱっとまっすぐな隙間などできはしません。どんな足がまっすぐな人でも、隙間はいろいろな瓢箪型になるはずです。
人間って、なんでもない雑談がいつまでもこだわりになることがあるものですが、昔、画家の猪熊弦一郎さんがヨーロッパに行くときの話で、『船でインド洋を何日も行くと、喜望峰に二本の大きな石の柱が立っていて、それが一本の柱に見えるんだよ。船がずっと進むと、それが二本に分かれて、その隙間からインド洋の青い空の光がピカッと映って、また瞬間的に一本の柱になってしまう。すごく印象的だった』と、まあ、こんな話で、それがいつも私のなかにこだわりになって残っていました。で、これをつくったとき、足の間を開いて、細いカミソリほどにすーっと開けてみたり、割合に苦労しました。興福寺に有名な三面六臂の阿修羅像がありますが、あれをいくらか意識してもいました。
とにかく、これは立っている分だけ、さっきの座っているのよりも私にはむずかしいものでした。これも下手をすると、見ている人の息がつまっちゃう。たとえば、金魚は腰を振り振りゆっくり前に進みますが、マグロやブリは金魚みたいにお尻をらず、わずかにヒレを動かして直線的に鋭角に進むようです。こういうシンメトリーな彫刻には、そうした作業の呼吸が必要なようです。
(「遠近法の精神史-人間の眼は空間をどうとらえてきたか-」28~29頁より)
尚、旭川市神楽3条7丁目「大雪クリスタルホール」は、平成5年(1993)9月に開館した、「博物館」「音楽堂」「国際会議場」の三施設のある複合施設で、特に音響の良いことで「音楽堂」は有名である。